研究紹介

系外惑星・恒星・連星などを主な対象に、個々の天体の性質から集団としての特徴や形成・進化まで、幅広い観点から研究しています。 ここでは研究テーマごとにより具体的な内容を紹介します。

大学院生・学部生としてこれらの研究に携わることに興味のある方は、大阪大学大学院 理学研究科 宇宙地球科学専攻の赤外線天文学グループ(住研究室)への出願をご検討ください。メールでの問い合わせや直接の訪問も歓迎します。
研究テーマは各自の興味や経験に応じて相談しながら決め、必要な天文・統計・プログラミングの知識は研究を進めながら身につけていきます。具体例は指導した学生の研究で紹介しています。

TTVで探る惑星の内部構造と大気進化

惑星が恒星の手前を横切る際に生じる減光から系外惑星を検出する方法をトランジット法と呼びます(図1)。このようなトランジット惑星は、NASAのKeplerやTESSといった宇宙望遠鏡による観測で、これまで数千個が発見されてきました。トランジット惑星の重要な特徴は、減光の割合から惑星の大きさ(半径)を測れることです。図1に示すように、恒星に対して惑星が大きいほど減光の割合も大きくなります。さらに質量が分かれば平均密度を求められるため、惑星の組成や内部構造を推定できます。

図1:トランジットの模式図。Credit: NASA’s Jet Propulsion Laboratory

私はTransit Timing Variation(TTV; トランジット時刻変動)という手法を用いた惑星質量の測定に取り組んでいます。複数の惑星をもつ系では、惑星どうしが万有引力で引き合うため、それぞれの公転運動がわずかに変化し、トランジットの時刻が一定の間隔からずれます(図2)。観測されたTTVを、万有引力のもとでの運動方程式を数値的に解くN体計算でモデル化することで、惑星の質量や軌道の形状を推定します(図3)。

図2:惑星どうしの重力相互作用を考慮した軌道計算の例。 内側の惑星の軌道が完全に周期的ではなくなっている。
Kepler-51の3惑星のトランジット時刻変動。観測点とN体計算によるモデルの比較。
図3:Kepler-51の3惑星のTTV。観測されたトランジット時刻のずれとN体計算によるモデルを比較し、惑星の質量や軌道を推定する。

若い低密度惑星と大気進化

TTVの解析を通じて、新たな惑星の発見や惑星質量の測定に貢献してきました。特に、若い恒星のまわりを公転するスーパーアース(地球の1-10倍程度の質量をもつ惑星)の中に、太陽系の惑星の10分の1以下という非常に低い平均密度をもつ惑星が存在することを明らかにしてきました。このような惑星はスーパーパフと呼ばれ、形成後の惑星の大気が冷却・収縮や散逸によってどのように変化していくかを調べる上で重要な天体です。例えばKepler-51の3つの惑星は、既知の惑星の中でも最も密度が低く、スーパーパフの顕著な例として知られています(Masuda 2014; Masuda et al. 2024)。

近年は、米国・欧州の探査グループとの共同研究を通じて、TESSなどで観測された若い恒星のまわりの惑星のTTV解析に重点的に取り組み、さらに多くの低密度惑星の質量を測定しています(図4)。例えばV1298 Tauでは、9年間にわたるトランジット観測から、4つの惑星はいずれも半径の割に質量が小さい低密度惑星であることが分かりました(Livingston et al. 2026, Nature)。これらは今後、冷却・収縮や大気散逸を経て、成熟した惑星系でよく見つかるスーパーアースやサブネプチューンへと進化すると予測されます。こうした若い低密度惑星は、形成時に獲得した大気がどのように進化するかを理解するための重要なサンプルです。

惑星の質量と半径の分布。岩石惑星と水素大気をもつ惑星のモデル、および若い惑星を含むTTVによる測定値。
図4:惑星の質量と半径。曲線は組成モデル、四角はTTV解析で質量を測定した惑星。白抜きの四角は主星の年齢が10億年未満の若い惑星を示す。若い惑星には、質量の割に半径が大きく、膨らんだ大気をもつものが見られる。こうした惑星が時間とともに大気を失い、より小さな惑星へと進化する可能性を探っている。

自動微分を用いたTTV公開コード開発

TTV解析では、各惑星の質量や軌道を変えながらN体計算を繰り返し、観測されたトランジット時刻を再現するパラメータを推定します。惑星の数が増えるほどパラメータ空間は高次元になり、パラメータ間にも強い相関が生じるため、その確率分布を効率よく探索することが大きな計算上の課題になります。

このような解析を高速かつ柔軟に行うため、公開TTV解析コード jnkepler を開発しています。jnkeplerはPythonで利用できるN体計算コードで、トランジット時刻などの予測だけでなく、それらが惑星の質量や軌道パラメータに対してどのように変化するかを自動微分によって計算できることが特徴です。N体計算から統計的推論までをPython上で一貫して行うことができます。

自動微分で得られる勾配情報をハミルトニアン・モンテカルロ法(HMC)などの推論手法と組み合わせることで、emceeなどの従来のrandom-walk型MCMCと比べて、高次元のパラメータ空間を桁違いに高速に探索できます。例えばこちらの解析例では、従来法では事後分布を十分に探索するのに数日を要していた計算をわずか10分で実行できます。これにより、多数のパラメータが強く相関する複雑な多惑星系など、従来法では実質的に困難だった解析も可能になります。

惑星系の幾何学構造

太陽系の惑星は、ほぼ同じ平面上を円に近い軌道で公転しています。この規則的な軌道構造は、惑星が若い恒星を取り巻く円盤の中で形成されたという、現在の惑星形成の基本的な描像につながった重要な性質です。一方、系外惑星には、大きく歪んだ軌道や、互いに傾いた軌道をもつものも数多く見つかっています。こうした軌道の多様性は、形成後の惑星どうしや伴星との重力相互作用などによる力学進化を反映していると考えられます。私は、惑星軌道の形や向きを測定することで、こうした形成・進化の過程を観測的に明らかにする研究に取り組んでいます。

惑星軌道の相互傾斜角

同じ円盤の中で形成された複数の惑星は、はじめはほぼ同じ平面上を公転すると考えられます。その後、惑星どうしや伴星との重力相互作用、惑星散乱などが起これば、軌道の形が歪むだけでなく、公転軌道面どうしにもずれが生じます。このずれを表す軌道の相互傾斜角は、惑星系が形成後にどのような力学進化を経験したかを知るための重要な手がかりです。

例えば Masuda et al. (2020) では、短周期のスーパーアースと、その外側を公転する長周期の巨大惑星をもつ系について、惑星軌道どうしの相互傾斜角を統計的に推定しました(図1)。その結果、内側のスーパーアースが円に近い軌道をもつ系では、太陽系と同程度に軌道面がよく揃っている一方、軌道が大きく歪んだ系では、公転軌道面にもより大きなずれが見られることが分かりました。これは、惑星散乱などの力学過程が、軌道の形と向きの両方に影響を残すことを示唆しています。

内側のスーパーアースの軌道(赤)と、相互傾斜角の分布から抽出した外側の巨大惑星の軌道(青)の模式図

図1:内側のスーパーアース(赤)に対する、外側の巨大惑星(青)の軌道面の広がり。青い軌道は、Masuda et al. (2020)で推定された相互傾斜角の分布から抽出した軌道。

個別の惑星系についても、3次元的な軌道構造から力学進化をたどる研究を行っています。例えば、TTVの解析から短周期の巨大惑星の外側に軌道面の大きく傾いた伴星を発見し、長期的な軌道進化を計算することで、伴星の重力によって惑星の軌道が大きく歪み、さらに主星との潮汐相互作用によって軌道が縮んでいく過程を示しました(Masuda 2017)。このような観測から、現在見えている軌道構造を手がかりに、惑星系がどのような力学的な歴史をたどってきたかを調べることができます。

惑星の公転軌道と主星の自転軸のずれ

惑星軌道どうしのずれに加えて、惑星の公転軌道と主星の自転軸の向きのずれも、惑星系の形成・進化を探る重要な手がかりです(図2)。太陽系では、惑星の公転軌道の向きと太陽の自転軸はほぼ揃っています。一方、系外惑星では、惑星の公転軸と主星の自転軸が大きくずれた系も見つかっています。こうしたずれの起源を調べることで、惑星軌道の力学進化や、惑星の誕生の場である星周円盤の形成・進化を探ることができます。

惑星の公転軸(青)と主星の自転軸(赤)のなす角を示す模式図
図2:惑星の公転軸(青)と主星の自転軸(赤)のずれ(紫)の模式図。

このずれを調べる方法の一つが、恒星の自転軸が私たちの視線に対してどの程度傾いているかを測ることです。トランジット惑星では惑星軌道がほぼ視線方向と揃っているため、恒星の自転周期・半径と、分光観測から得られる射影自転速度を組み合わせて恒星の自転軸の傾きを推定することで、惑星軌道とのずれを制限できます。私はこの方法で恒星の自転軸傾斜角を推定する際に、観測誤差や幾何学的な不定性を正しく扱うための統計的な方法を確立しました(Masuda & Winn 2020)。この枠組みを用いることで、多数の惑星系について恒星の自転軸と惑星軌道のずれを統計的に調べ、その形成や力学進化を探ることができます。

今後は、この方法を位置天文衛星Gaia(図3)の観測と組み合わせ、これまで情報が限られていた長周期の木星型惑星(コールドジュピター)へと研究を広げます。Gaiaは、惑星の重力による主星の天球上でのわずかな位置変動から、惑星軌道の傾きを測定できます。これを、せいめい望遠鏡での高分散分光観測と自転周期・半径から推定する恒星の自転軸の傾きと組み合わせ、両者のずれの分布を統計的に調べる計画です(恒星の自転と年齢も参照)。恒星の近くを公転するホットジュピターとの比較を通じて、自転軸と公転軸のずれが惑星の力学進化によって生じたのか、それとも形成時の星周円盤と恒星の自転のずれを反映しているのかを探ります。

天の川を背景に、円形のサンシールドを広げた位置天文衛星Gaiaの想像図
図3:位置天文衛星Gaiaの想像図。Credit: ESA/ATG medialab; background image: ESO/S. Brunier(CC BY 4.0)

系外惑星の存在頻度

図1はこれまでに発見された系外惑星を、恒星からの距離と惑星質量の平面上に示したものです。この分布は、惑星が実際にどれくらい存在するかだけでなく、観測による見つけやすさの違いにも大きく影響されています。例えば左上にある、恒星の近くを公転する巨大惑星(ホットジュピター)が多いのは、このような惑星が視線速度法やトランジット法で特に発見しやすいためでもあります。惑星系がどれほど普遍的なのか、太陽系が典型的なのか特殊なのかを理解するには、観測ごとに異なる惑星の検出しやすさを評価して補正し、惑星の本来の存在頻度(occurrence rate)を推定する必要があります。このような存在頻度と惑星の物理的性質や軌道との関係はまた、惑星の形成過程を理解する上でも重要な手掛かりとなります。私は、このような惑星の存在頻度の推定や、そのための統計的方法論の開発に取り組んでいます。

既知の系外惑星と太陽系の惑星の質量と恒星からの距離。代表的な惑星集団の存在頻度を併記。
図1:既知の系外惑星(丸)と太陽系の惑星(菱形)の質量と軌道の分布。点の分布には観測上の選択効果が含まれる。図中の恒星1つあたりの個数は、主に太陽型星について検出効率を補正して求められた存在頻度の文献値をまとめたもの。

惑星の存在頻度の恒星年齢依存性

図1では惑星自身の性質に注目していますが、さらに惑星をもつ恒星(主星)の年齢の関数として惑星の存在頻度を調べることで、惑星の物理的性質や軌道が時間とともにどのように進化してきたかを、集団全体の傾向から調べることができます。

Miyazaki & Masuda (2023)では、惑星の存在頻度を恒星の年齢・質量・金属量の関数として同時に推定する統計的方法を構築しました(図2)。これらの恒星の性質には互いに相関する不確かさがあるため、それらを整合的に扱うことが重要です。この方法を地上の視線速度サーベイに適用し、木星質量の巨大惑星について、こうした不確かさを考慮した存在頻度の推定を初めて行いました。その結果、恒星寿命の後半でホットジュピターの存在頻度が減少する傾向が明らかになりました(図3)。これは、主星との潮汐相互作用によって惑星の軌道が縮み、最終的に主星に落下することを示唆しています。同様の傾向は恒星の運動の特徴からも示唆されていましたが、本研究は、惑星の存在頻度の推定を通じて初めて統計的な裏付けを与えたものです。

惑星の質量と軌道長半径で分けた集団ごとに、存在頻度を主星の年齢・質量・金属量の関数として推定する概念図。
図2:惑星の存在頻度を推定する方法の概念図。惑星の質量と軌道長半径で分けた集団ごとに、存在頻度を主星の年齢・質量・金属量の関数として調べる。
恒星の年齢に対する巨大惑星の存在頻度の推定。公転周期の異なる2集団と不確かさの領域。
図3:Miyazaki & Masuda (2023)で得られた恒星年齢と巨大惑星の存在頻度の関係。公転周期の短いホットジュピターでは、時間とともに存在頻度が減少している。

恒星の自転と年齢

惑星系が時間とともにどのように変化するかを調べるためには、惑星を有する恒星の年齢を知る必要があります。そこで恒星の年齢を推定するための有力な方法の一つであるgyrochronologyについても研究しています(gyroは回転、chronoは時間、-logyは学問を意味します)。太陽のような恒星は、磁場を伴う恒星風によって角運動量を失う磁気制動(magnetic braking)と呼ばれる過程を通じて、一般に年齢とともに自転が遅くなります。この性質を利用すると、自転周期の測定が年齢を知る手がかりになります。gyrochronologyをよりよく理解し利用するためには、自転と年齢の関係を観測から明らかにすることが重要です。

自転周期の測定

恒星の自転は、衛星による測光や地上望遠鏡による分光から調べることができます。恒星の表面に黒点などがあると、自転に伴ってそれらが見え隠れするため、星の明るさが周期的に変化します。KeplerやTESSなどの衛星が観測した光度曲線(明るさの時間変化)が示す周期性から、自転周期を測ることができます(図1)。

もう一つの方法は、恒星の光を波長ごとに分けたスペクトルを使うことです。自転する恒星では、表面のこちらに近づく側と遠ざかる側で、ドップラー効果によって吸収線の波長が逆向きにずれます。星全体の光を合わせると吸収線が広がるため、その広がりから自転の速さを調べることができます(図2)。吸収線の広がりには、自転の速さだけでなく自転軸の見える向きも影響します。そこで、多数の恒星について自転軸の向きを統計的に扱い、恒星の半径の情報と組み合わせることで、自転周期の分布を推定できます(Masuda et al. 2022)。

黒点のある恒星の自転と、Keplerによる光度曲線。明るさの緩やかな変動の繰り返しが自転周期を示す。
図1:測光による自転周期の測定。黒点が自転とともに見え隠れすることで、明るさが緩やかに変動する。黄色の矢印が自転周期を示す。鋭い減光は惑星のトランジットによるもので、自転による変動とは異なる。
自転が速い星では吸収線が幅広く、自転が遅い星では吸収線が細く見えるスペクトルの比較。
図2:分光による自転の測定。自転が速い星(上)では、遅い星(下)に比べて吸収線が広がる。実際の解析では、自転軸の向きや、自転以外の原因による吸収線の広がりも考慮する。 Credit: David F. Gray, "The Observation and Analysis of Stellar Photospheres" (Cambridge University Press)

老いた太陽型星の自転進化

自転と年齢の関係は、星団の恒星に対して上で述べたような測光を行い、自転周期を測ることで調べられてきました。しかし、年齢を重ねた恒星では明るさの変動が小さく、測光から自転周期を捉えることが難しくなるため、太陽と同程度以上の年齢の恒星では、この手法で得られる情報は限られています(Masuda 2022a; Masuda 2022b)。この限界を補うため、私はせいめい望遠鏡の高分散分光器GAOES-RVによる分光観測から恒星の自転を調べています(図3左)。衛星による測光と分光観測を組み合わせ、それぞれの方法で自転を測定できる恒星の違いも考慮することで、年齢を重ねた恒星の自転の全体像を明らかにしようとしています。さらに、こうして得られた自転の情報を独立に推定した恒星年齢と比較することで、太陽と同程度以上の年齢で自転がどのように変化するかを明らかにすることを目指しています(図3右)。

こうした測定は、gyrochronologyの適用範囲を広げるという実用的な意義に加え、恒星の磁気活動を理解する上でも重要です。年齢を重ねた恒星の自転進化を調べることで、その背後にある磁気活動や磁気制動がどのように変化するかを探ることができます。

ドーム内のせいめい望遠鏡と夜空。恒星の年齢と自転周期の概念図。若い星団と太陽に対し、太陽より古い恒星の関係には疑問符が付いている。
図3:(左)高分散分光器GAOES-RVによる自転の観測に用いているせいめい望遠鏡。(右)恒星の自転と年齢の関係の概念図。太陽と同程度以上の年齢では、この関係を確かめるための観測がまだ限られている。破線は若い恒星での関係を延長したイメージであり、古い恒星で確かめられた関係ではない。横軸の1 Gyrは10億年。 写真提供:京都大学岡山天文台

連星

2つの恒星が重力で結びつき、互いの周囲を公転する系を連星と呼びます。系外惑星の研究と同様の測光・分光データや解析手法を用いて、白色矮星などのコンパクト天体を含む連星の探査や、連星を利用した遠くの銀河までの距離測定にも取り組んでいます。

コンパクト天体を含む連星の探査

連星では、星どうしの距離が近づくと、質量移動などの相互作用によって単独の恒星とは異なる進化が起こります。とくに、一方の星が進化して白色矮星になった連星では、現在の軌道や質量に過去の相互作用の痕跡が残されているため、さまざまな軌道間隔にある系を見つけて調べることが、連星進化を理解する手がかりになります。

比較的広い軌道をもつ白色矮星連星を見つける方法の一つが、self-lensing(連星内での重力レンズ効果)を利用するものです。白色矮星が通常の恒星の手前を通過すると、恒星を隠す効果よりも、白色矮星の重力によって背景の光が集められる効果が強くなり、一時的な増光が観測されることがあります。Keplerの光度曲線からこの現象を探すことで、数au程度の比較的広い軌道をもつ白色矮星連星を新たに4つ発見しました(Kawahara et al. 2018; Masuda et al. 2019)。これらは、従来詳しく調べられてきた公転周期数日程度の近接した白色矮星連星よりはるかに広く、連星相互作用が最終的な軌道をどのように決めるかを調べる上で重要なサンプルです。

一方、より近接した連星では、伴星からの潮汐力によって恒星が変形し、その見かけの形が公転とともに変わることでellipsoidal variationと呼ばれる周期的な光度変化が生じます(図1)。TESSの光度曲線からこのシグナルを探し、せいめい望遠鏡・なゆた望遠鏡による視線速度観測と組み合わせることで、白色矮星を伴う近接連星も発見しています(Shiraishi et al. 2026)。これまでに見つかった白色矮星は約1太陽質量以上と重く、既知の近接白色矮星連星の中でも重い部類に属します。このような探査では、将来的に光をほとんど出さないブラックホールなどの伴星が見つかる可能性もあります(Masuda & Hotokezaka 2019)。

このように、宇宙望遠鏡による高精度測光と地上望遠鏡による分光観測を組み合わせ、従来とは異なる軌道間隔や質量をもつ連星を探すことで、恒星どうしの相互作用を含む連星進化をより広い範囲で検証しています。

伴星の潮汐力によって変形した恒星と、観測者に対する向きの変化。公転位相に伴う明るさの変化。1公転の間に2回明るくなる光度曲線。
図1:近接連星の潮汐変形と光度変化の模式図。左は伴星の重力で変形した恒星と観測者の方向、右は公転位相に対する相対的な明るさを示す。公転に伴って恒星の見かけの形や面積が変わり、1公転の間に2回明るくなるellipsoidal variationが生じる。

食連星による銀河の距離測定

2つの星が互いの手前を通過し、周期的に暗く見える連星を食連星と呼びます(図2)。食による明るさの変化と、分光観測で測る星の視線方向の速度を組み合わせると、星の半径や軌道の大きさを求められます。さらに、星の表面温度や色などから単位面積あたりの明るさを推定し、観測される明るさと比較することで、連星までの距離を測定できます。

図2:食連星の模式動画。2つの星が互いを隠すことで、周期的な減光が生じる。 Credit: ESO/L. Calçada
紫外線で見たアンドロメダ銀河M31。
図3:アンドロメダ銀河(M31)の紫外線画像。この銀河にある食連星を用いて、距離の精密測定を目指している。 Credit: NASA/JPL-Caltech

この方法を用いて、東京大学の仏坂健太氏や東北大学の直川史寛氏らと共同で、アンドロメダ銀河(M31;図3)までの距離を精密に測る研究に取り組んでいます。すばる望遠鏡の広視野カメラHSCで得られた時系列測光データから距離測定に適した食連星を探し、多天体分光器PFSによる分光観測と組み合わせて、光度曲線と軌道運動を解析する計画です。

M31までの距離を独立な方法で精密に決めることは、同じ銀河にあるセファイド変光星などを用いた距離測定の較正を検証することにつながります。セファイドは、より遠方の超新星へと距離をつなぎ、宇宙の現在の膨張率であるハッブル定数を測定する「距離はしご」の重要な段階を担っています。現在、この方法から得られるハッブル定数と初期宇宙の観測から推定される値にはHubble tensionと呼ばれる食い違いがあります。この違いが未知の観測系統誤差によるものなのか、それとも標準的な宇宙モデルを超える新しい物理を示しているのかは、現在の宇宙論における重要な問題です。そのため、距離はしごの各段階を独立な方法で検証することが重要になっています。

惑星・褐色矮星の大気

近年、直接撮像された系外惑星(図1)や褐色矮星の光を分光し、大気中の分子や化学組成を詳しく調べられるようになってきました。また、JWSTによる高精度なトランジット観測では、惑星が恒星の前を通過するときの減光を波長ごとに測ることで、惑星大気を透過した光に含まれる分子の吸収を捉えられます(図2)。こうした観測から、大気の温度構造や化学組成、雲などの性質を推定し、惑星の形成や進化を調べることができます。

直接撮像で捉えた、恒星HR 8799の周囲を公転する4つの惑星
図1:直接撮像で捉えたHR 8799の4惑星。Keck望遠鏡による複数年の観測をつないだ動画。Credit: Jason Wang (Caltech)/Christian Marois (NRC Herzberg)
透過分光の模式図。惑星大気の分子が強く吸収する波長ではトランジットが深くなる。
図2:透過分光の模式図。惑星大気の分子が光を強く吸収する波長では、トランジットによる減光が深くなる。この波長ごとの違いから大気の性質を調べる。

私は、宇宙科学研究所の河原創氏、京都大学の川島由依氏らと共同で、惑星や褐色矮星の大気を調べるための解析手法やモデルの開発、すばる望遠鏡の近赤外線高分散分光器IRDを用いた観測などに取り組んでいます。

褐色矮星Luhman 16の高分散スペクトルと大気モデルの比較。上段に観測とモデル、下段に残差を示す。
図3:褐色矮星Luhman 16の高分散スペクトルと大気モデルの比較例。上段は観測スペクトルとモデル、下段はその残差。分子の吸収線を解析することで、大気の温度構造や化学組成を推定し、天体の形成環境を議論する手掛かりを得られる。指導学生・山氏の博士論文より(Yama et al. 2026)。

天文学における統計的推論

天文学では、限られた観測データから天体の物理的性質を推定するために、物理モデルと統計的推論を組み合わせる必要があります。私は、こうした解析を支える統計・計算手法そのものにも関心があります。

ベイズ推論

ベイズ推論では、観測データとモデルから、未知の物理量についてどのような値がどの程度もっともらしいかを確率分布として推定します。天文学では、測定誤差だけでなく、パラメータ間の縮退や観測による選択効果を扱う必要があり、個々の天体の性質から天体集団の分布までを統一的に扱えるベイズ的な方法が特に有用です。

例えば、恒星の自転速度と射影自転速度から自転軸の傾きを推定する際の確率分布の扱い(Masuda & Winn 2020)、多数の恒星の射影自転速度から自転周期の集団分布を推定する方法(Masuda et al. 2022)、恒星の年齢・質量・金属量の不確かさとそれらの相関を考慮し、ホットジュピターの存在頻度と恒星年齢の関係を推定する階層ベイズ解析(Miyazaki & Masuda 2023)などに取り組んできました。最近では、重力マイクロレンズイベントの解析におけるベイズ推論の枠組みについても研究しています(Nunota & Masuda, submitted)。

JAXと自動微分

複雑な物理モデルを観測データに当てはめるには、モデルを多数回計算しながら、多くのパラメータをもつ確率分布を探索する必要があります。そこで、JAXによる自動微分を使って物理モデルを「微分可能」にし、その勾配を最適化やHamiltonian Monte Carlo(HMC;図1)などに利用する計算手法にも取り組んでいます。

これまでに、多惑星系のN体計算を行う公開コード jnkepler、恒星進化モデルを用いた等年齢線フィッティングを行う jaxstar、高分散恒星スペクトルをモデル化する jaxspec などを開発してきました(具体的な内容については Software を参照してください)。こうした微分可能な物理モデルを用いることで、高次元でパラメータ間の相関が強い問題でも効率的な推論が可能になります。

Hamiltonian Monte Carlo による2次元確率分布のサンプリングのアニメーション。
図1:Hamiltonian Monte Carlo (HMC) による2次元確率分布のサンプリング。等高線で示した事後分布の上を軌道に沿って効率よく探索する様子を表している。 Credit: Wikimedia Commons (CC0 1.0)

逆問題

観測されたデータから、直接見ることのできない天体の構造や分布を復元する問題は逆問題と呼ばれます。このような問題では、異なる構造が似た観測データを生み出すことがあり、観測だけから一意の答えを得ることが難しいため、物理的・統計的な仮定を取り入れて可能な解を絞り込む必要があります。

Kawahara & Masuda (2020) では、空間的に分解して観測できない系外惑星について、時間とともに変化する明るさから惑星表面の地図を推定する Bayesian Dynamic Mapping という方法を研究しました。自転や公転によって見えている領域が変化することを利用し、観測された光度変化から表面の空間構造やその時間変化を確率的に復元します。

指導した学生の研究

博士論文

修士論文

卒業研究

  • 大勢 英晃2025年度

    重力マイクロレンズ光度曲線解析における再パラメータ化および HMC 法の有効性の検証

    地球の公転によるパララックス効果を含む重力マイクロレンズ光度曲線を解析し、再パラメータ化とハミルトニアンモンテカルロ(HMC)法によるサンプリング効率の改善を検証しました。

    関連する研究テーマ:天文学における統計的推論
  • 中山 星矢2024年度

    長周期食連星 KIC 8648356 における重力減光の解析

    長周期食連星 KIC 8648356 の光度曲線に重力減光の影響が現れるかを調べ、自転軸と軌道の傾きを測定する可能性を検討しました。

    関連する研究テーマ:惑星系の幾何学構造
  • 小川 涼2024年度

    双子連星を用いた自転と年齢の関係の検証

    双子連星の高分散スペクトルから自転速度を測定・比較し、星団外の恒星における自転と年齢の関係を検証しました。

    関連する研究テーマ:恒星の自転と年齢
  • 大石 龍之介2024年度

    重力相互作用を考慮した軌道解析による直接撮像惑星の質量推定

    直接撮像された HR 8799 系の軌道を惑星間の重力相互作用を含めて計算し、熱進化モデルを用いずに質量を推定する可能性を検討しました。

    関連する研究テーマ:TTVで探る惑星の内部構造と大気進化
  • 長野 冬瑚2023年度

    双子連星を用いた恒星の自転と年齢の関係の検証

    Gaia の連星カタログと Kepler の測光データから双子連星の自転周期を比較し、自転と年齢の関係を検証しました。

    関連する研究テーマ:恒星の自転と年齢
  • 坂東 賢2022年度

    Kepler-296 系におけるトランジット時間変動の解析

    Kepler-296 のトランジット時刻変動を解析し、惑星間の重力相互作用から惑星の質量に制限を付けました。

    関連する研究テーマ:TTVで探る惑星の内部構造と大気進化
  • 友善 瑞雄2021年度

    巨星連星 UU Cnc の潮汐変形の効果を考慮した視線速度変動の解析

    巨星連星 UU Cnc の視線速度を潮汐変形の効果を含めて解析し、連星の質量と伴星の性質を調べました。

    関連する研究テーマ:連星